今年2024年は、写植機発明100周年を記念し、業界では様々な企画が行われ、事実上
風化していた写植時代というものが、展示や資料を通じて息を吹返し、それを知らない
世代の人々に、再認識されつつあるように思います。
さて、本文書体の制作環境の変化を振返ると、活字時代・写植時代・DTP時代と時代が
移るに従って、確認しづらかった最終組版状態をリアルタイムで格段に確認しやすくなっ
たことで、文字の大きさの関係・形状の統一・流れの調整などのクオリティを追求し、
書体デザインにすぐにフィードバックできるようになっています。
しかしながら、組版状態が確認しやすくなったとはいえ、”良い本文書体とは?”という
考察をした場合、読書中の人間の認知状態の壁にぶち当たることになります。
数値的・図形的に滑らかなデザインで統一した場合、言語として単語ごとの認識がしづ
らくなり、頭に入ってきません。
従って、文字は一つ一つ、その文字らしさを感じられる特徴的な形状で認識した方が、
即時に認識しやすくなります。そして、その文字の特徴を表した心地よい形状とは、人が
その文字を書いた筆跡の記憶と、見ているデザインの形状が響き合った時、読者の脳の認
識感覚に心地よく感じられるリズムを引き起こすようなデザインであると言えるのではな
いでしょうか? しかも、一つ一つの文字だけでなく、文章として流れを作った時の流れ
のリズムも同じように心地よく感じられる調整も必要になってきます。
つまり、心地よさのみでは、必要以上に緊張感が低下し、単語の知覚が弱くなり、頭に
入ってこないということになります。文字ごとの適度に誇張した特徴的な刺激的な形状も
必要になってきます。逆に、今度は特徴を誇張し過ぎると、心地良さを阻害します。
そして、学術用文章、小説用文章、エッセイ用文章、おそらくそれぞれの内容で、これ
らの要素は変化してくると考えます。
”読みやすい本文用書体とは?”・・・このような要因を考え始めると、実にたくさんの
要因があることがわかります。
そのあとの考察は、またの別の機会に・・・・・